東京高等裁判所 昭和46年(う)2844号 判決 1972年2月21日
被告人 竹内博
主文
本件控訴を棄却する。
理由
本件控訴の趣意は、弁護人滝沢太助提出の控訴趣意書(同補正申立書を含む。)に記載されたとおりであるから、これを引用し、これに対し、記録を精査し、かつ、当審における事実の取調の結果を参酌して、次のとおり判断する。
控訴趣意第一点について。
所論は、昭和四五年六月二六日付東京都公安委員会の交通規制(計画四五年甲第五四号)が通行禁止の対象を空車、迎車のタクシーだけに限つて、実車のタクシー、自家用車、ハイヤーなどを除外しているのは、これらの車両によつても交通の安全と円滑に支障をもたらす点において空車、迎車のタクシーとなんらかわりがないのに不合理な差別をしているものであるから、右交通規制はこの点において憲法一四条に違反するというのである。
そこで考えてみるのに、前掲東京都公安委員会の交通規制は、道路交通法七条一項の「公安委員会は、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図るため必要があると認めるときは、当該道路につき、区間を定めて、歩行者又は車両の通行を禁止し、又は制限することができる。」との規定に基づき、交通実態に応じた交通規制を実施するため、その別表所定の区間につき日曜、祝日を除く日の二二時から翌日一時までの間、空車、迎車のタクシーを対象としてその通行を禁止するという内容のものであるが、一件記録並びに当審における事実の取調の結果によれば、銀座のこの界隈は飲食店等の密集する地区であるところから交通渋滞がはげしく、従来緊急事態が発生しても容易に現場に近づけないおそれがあり、ことに飲食客が帰路につく平日の二二時から翌日一時にかけては、それらの客を拾うべく空車のタクシーが一方通行路を周遊し、あるいは駐車又は停車して蝟集することが交通渋滞の最大の原因をなしていることが過去の実績に徴して顕著であるところから、道路における危険を防止しその他交通の安全と円滑を図るため、必要最小限度の規制措置として、その対象を空車および迎車のタクシーに絞り(迎車のタクシーをも加えたのは、空車のタクシーが迎車を装つて右区間に入ることがそれ以前の試験的規制の際認められたことによる。)、特定の区間と時間を限つてその通行を禁止するとともに、他方においてタクシー乗場を増設する等の措置を講じたことが認められるのであるから、空車、迎車のタクシーのみをその他の車両と区別して交通規制の対象としたことにつき合理的な理由があるということができる。それゆえ所論憲法違反の主張は理由がない。
同第二点および補正申立について。
所論は、要するに本件現場であるみゆき通りと外堀通りとの交差点の道路標識を土橋方面から晴海通り方面に向かつて見ると、日曜、祝日を除き二二時から翌日の一時まで空車、迎車のタクシーの通行を禁止する旨の表示が不明確で誤認し易いのであるから、これを確認しないでみゆき通りに進入したからといつて被告人に過失があるということはできないというのであるけれども、一件記録によれば、原判示の道路において前方の道路標識の表示に注意すれば同所が通行禁止の場所であることに気づくはずであると認めることができ(現に被告人は原審においてこのことを特に争つていない。)、当審における事実の取調の結果を合わせて検討してみても原判決の右認定が誤認であるとはとうてい考えられないから、右の論旨も理由がない。
よつて、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却し、当審における訴訟費用につき刑訴法一八一条一項但書を適用して、被告人に負担させないこととして、主文のとおり判決する。